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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)44号 判決

原告 全国穀類工業協同組合

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は特許庁が同庁昭和二十七年抗告審判第一二三三号事件につき昭和二十八年十一月十三日になした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は「家庭」なる漢字を縦書して成る商標につき昭和二十六年十月二十三日に第四十七類穀菜類、種子、果物、穀粉、澱粉及びその製品(但し糊及びその類似品を除く)を指定商品(但し以上の指定商品は当初出願の際のものをその後昭和二十七年九月十一日附訂正書を以て右の通り訂正したものである)としてその登録を出願したところ、昭和二十七年十月二十五日に拒絶査定を受けたので、同年十一月二十九日に特許庁に対し抗告審判請求をし、同事件は同庁昭和二十七年抗告審判第一二三三号事件として審理され、昭和二十八年十一月十三日に右抗告審判請求は成り立たない旨の審決がなされ、その審決書謄本は同月二十一日原告に送達された。

審決はその理由として本件商標は特異性のない普通の書体で普通に使用される方法で「家庭」の文字を縦書して成るものであつて、指定商品との関係に於ては取引者及び需要者をして家庭に於て使用される商品であることを直感させるものであるから単に商品の用途を表示したものに外ならず、自他商品甄別の標識たる商標法第一条第二項所定の特別顕著性を具備しないものであるとした。

(二)  然しながら需要者及び取引者の間では右商標は「家庭印」と観念して取扱うものと解するのが実験則に合致しており、家庭に使用する商品の用途を示す普通の方法は「家庭的」又は「家庭用」と表示することであつて、「家庭」は吾人の心を安んずる最も親しみ深い所であつて何人も之を「家庭的」又は「家庭用」なる語と同一視することはなく、前記指定商品に関し本件商標が単に右商品の用途として「家庭用」であることを普通の方法で表示したものとすべきではなく、従つて右商標は商標法第一条第二項所定の特別顕著性を具備するものと言わなければならない。

(三)  然らば審決が前記の通り本件商標が右特別顕著性を欠くものとしてその登録出願を排斥したのは失当であるから、原告はその取消を求める為本訴に及んだ。

と述べ、

被告の主張に対し家庭用の配給米につき「家庭用配給」なる語が用いられるのが普通であつて、「家庭配給」なる語が用いられることは普通はなく、仮に「家庭配給」なる語が用いられたとしても、「家庭」の文字だけでは直ちに「家庭用」なる用途を示すものと解することはできない。と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

請求原因事実中(一)の事実を認める。

本件商標は何等特異性のない毛筆書で普通に使用される「家庭」の漢字を羅列して成るものであつて、之をその指定商品に用いた場合に取引者及び需要者をして右商品が家庭で使用されるものであることを容易に直感させるに至るべきことは統制品たる米につき普通に用いられる「業務配給」「家庭配給」の用語例に於けるように「家庭」の語が「家庭用」の意味に普通に用いられることによつても明らかであり、従つて本件商標は普通に使用される方法を以て商品の用途を表示したものであるから自他商品甄別の標識たるべき特別顕著の要件を具備しないものと解すべきであり、審決が本件商標登録出願を排斥したのは相当である。

と述べた。(立証省略)

理由

請求原因事実中(一)の事実は被告の認めるところである。

成立に争のない甲第一号証によれば本件商標の「家庭」の文字は極めて普通の毛筆体を以て記されてあることが認められるところ、右商標の指定商品たる穀菜類等の多くは家庭に於て使用されるものであること当裁判所に顕著なるところであつて、之等商品に右のような本件商標を使用するときは必然世人をして右商品が家庭用であることを聯想させるに至るものと認めるのが実験法則に合致するものと解さなければならない。従つて右商標はその指定商品の用途を表示したものと解するの外なく、従つて商標法第一条第二項所定の特別顕著性を欠くものと言わなければならない。

然らば審決が本件商標を以て右特別顕著性を具備しないものとしてその登録出願を排斥したのは相当であつて、原告の請求は理由のないものであるから、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

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